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東京地方裁判所 昭和43年(むのイ)410号 決定 1968年7月08日

主文

本件申立は、これを棄却する。

理由

一本件申立の趣旨及び理由は別紙記載のとおりであり、これに対し当裁判所はあらまし次のとおり判断する。

二(1)  一件記録によると、被疑者は監禁被疑事件により昭和四三年六月二七日逮捕され、引続いて同月三〇日勾留され、且つ同日接見を禁止され、現在代用監獄亀有警察署留置場に在監中であるところ、同月三〇日東京地方検察庁検事平野新名義の弁護人等主張のような接見等に関する指定書(弁護人等はこれを「一般的指定」と呼んでいる)が被疑者及び前記亀有警察署長に交付されたことが認められる。

(2)  ところで、弁護人等は、右のような「一般的指定」は、法務大臣訓令事件事務規程第二八条に準拠して発せられたもので、実質上接見の一般的禁止として機能し、刑事訴訟法第三九条第三項からも認められないところであるばかりでなく、右第三九条第三項の規定自体憲法第三四条の趣旨に違反し、無効のものである旨主張するので、これらの点について考えてみるのに、

(イ)  まず右刑事訴訟法第三九条第三項は、その第一項において弁護人の被疑者との接見交通の自由を大原則として認めたうえで、その例外として、捜査官に、捜査のため必要止むを得ないときは、起訴前の期間中に限り、被疑者の防禦の準備をする権利を不当に制限しない範囲内で、弁護人の被疑者との接見等につき、その日時、場所、時間を指定することができるものとし、もつて前記原則的自由に或る程度の制限を加えることを許しているのである。そして極めて制約された期間内における犯罪捜査の困難性や、右指定是正のため同法第四三〇条が準抗告の手続を定めていることなどを考えると、この程度前記原則的自由に制限を加えることを認めても、必ずしも弁護人主張のように不合理極まる制限規定ということはできず、これをもつて直ぐに憲法第三四条の趣旨に違背するものとすることはできない。

(ロ)  そこで進んで弁護人等指摘の法務大臣訓令事件事務規程第二八条の規定内容を見ると、弁護人等が弁護人の被疑者との接見交通の一般的禁止である旨主張する「一般的指定書」なるものは、捜査官が前記のとおり刑事訴訟法第三九条第三項の指定を書面によつてする場合、あらかじめその旨を被疑者及び被疑者の在監する監獄の長に通知する連絡文書に過ぎず、それ以上弁護人等の主張するような一般的禁止の効果を持ち得ないものであると解するのが相当である。即ち同条前段は前記刑事訴訟法の規定をうけて、捜査官に同項の指定をなすべき被疑者につき、あらかじめ、同項の指定をなすべき旨前記の者に通知するべきことを命じているだけのものである。元来捜査官が前記指定をなすべき場合、必ずしも右のように被疑者及び監獄の長などにその旨あらかじめ通知することを要するものではないが、しかし実際問題として、折角弁護人等が監獄側出向いたとしても、その場において捜査官の指定により接見交通ができない場合があり得ることは、捜査官に前記のとおり指定の権限が認められている以上止むを得ないところであるから、前記第二八条前段はかような場合等を考慮し、あらかじめ指定をすることのあるべき被疑者につきその旨の通知連絡をすることとし、これにより当事者間に生ずべき無用の手数や行き違いを予防することを意図したものというべきである。ただその結果いきおい弁護人等は面接交通に先立ち、自ら又は事務員等を介し、捜査官に申し出て、その日時等の指定を受けることとなろうけれども、しかしそれは事実上の必要の問題であつて、そのことのために法律の規定なくして前記「一般的指定」(指定書書式の文言は必ずしも適当ではない)そのものに面接交通を一般的に禁止する効果があるものと解することはできない。

(ハ) これを要するに現行刑事訴訟法は捜査官に弁護人の接見交通を或る程度制限する権限を与えているのであるが、弁護人指摘の「一般的指定」は事務連絡上の単なる通知であつて、その指定そのものでないのは勿論又一般的禁止の効果を生ずるものでもないから従つていずれにしても刑事訴訟法第四三〇条の準抗告の対象となり得ないものである。そして、事実取調の結果によつても、本件弁護人等から具体的な指定を受けるための接見の申出のあつたこと、従つて又検察官において具体的指定をし、又はしなかつたことを認めることはできないから、単に「一般的指定」があつたことをもつて、弁護人等の接見交通権を一般的に禁止したものとする本件申立は理由がなく、棄却を免れないものといわなければならない。

よつて刑事訴訟法第四三二条、第四二六条により主文のとおり決定する。(中浜辰男)

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